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2017.07.11
元・関西外大教授が授業を見学しました―英語教育に詳しい外部有識者の感想は?―
先日、関西外国語大学の元教授(外部有識者の先生)が授業見学に来られました。そのときの様子や先生の感想を報告します。
外部有識者の先生が、どうして授業見学をすることになったの?
学校は日々、業務に追われている。本校も例外ではない。しかし、どんなに忙しくても、“授業を最優先にする”、これが私の学校運営のポリシーだ。また、忙しいからこそ、日頃の教育活動や授業を立ち止まって点検、チェックすることは大切だと思っている。本校(KI※)では、毎年9月に学校評価委員会を実施し、教育活動の点検・評価を実施している。
※KIとは関西インターナショナルハイスクール(KIHS)の略称です。
昨年度からこの評価委員会の外部有識者は元・関西外国語大学教授の並松善秋先生が委員を務めている。今回、先生からKIの授業をぜひ見学したい、との要望があり、総計9クラスの授業を見学していただいた。
並松先生は大阪府立高校の英語科教諭を歴任後、府立鳳高校校長を経て、関西外大の教授に就任。関西外大では中学・高校の英語科教職を目指す学生を指導。英語科教育法などの講義を担当した。このため高校の英語教育に詳しい。
習熟度別クラス編成の“英語の授業”を見学
金曜日の授業を見学。午前中の2コマは英語の授業だった。イギリス出身Warham先生の「Speaking / Listening」、イギリス出身のRussell先生の「General English」、谷本先生の「英文読解」の授業など、各15分。6クラスを視察した。
外国人教員による“英語の授業”は、どんな感じ?
Warham先生の”Level 4”の授業では、Specific group of people(特定の民族)で、ロマ民族に関する記事から英語の語彙や表現、スピーキングやリスニングを学んでいた。
The Roma people are sometimes called gypsies.
ロマ民族はジプシーとも呼ばれることがある。
千年ほど前は北インドに住んでいたが、ヨーロッパに移住した移動型民族で、今日では世界各地に住んでいる。しかし、どの国に多く住んでいるか。
Warham先生が、民族音楽独特のrhythm(リズム)のことを話し、生徒たちの前でリズムをとって実際に歌っていた。そのとき、突然、まさにトツゼン、並松先生と私が、授業見学のために教室にすべりこんだ。
一瞬にして、Warham先生の顔面が蒼白になった。同時に、生徒たちからどっと笑いが起こった。授業が終わった後でWarham先生に、どうして生徒が笑ったのか確認すると、まさか歌っているときに「偉い先生」が入って来るとは思っていなかったとのこと。もし、いつ見学に来るのか知っていたら、歌っていなかった、と悔やんでいた。
この後、授業は展開。
Which areas of the world did the Roma people move from?
Which areas did they move to?
Which places have large populations of Roma people?
こんな質問を矢継ぎ早にWarham先生が質問。生徒たちは英語で答えていた。
参考にテキストの一部を掲載するが、生徒たちはこの情報を使って応答していたのだ。
The Roma people are sometimes called gypsies. They were living in India before they moved into Europe about 1000 years ago. Now they live in many different counties, but they have kept their own culture and language. There are many Roma people in Bulgaria, Hungary, and Romania, but they also live in other European countries. The Roma are famous as musicians and dancers, and they have been very important to jazz, classical, and flamenco music.(Heinle Cengage Learning 発行 “Pathways, Listening, Speaking, and Critical Thinking 2”より引用)
次の授業は、Russell先生のGeneral Englishだ。Level 6の授業で、本校の英語最上位レベルの授業だ。知的、そしてフレンドリーなRussell先生が次々に質問。生徒たちも自由な雰囲気で英語でガンガン答えていた。
休憩時間の教室は、どんな様子?
チャイムが鳴って、10分休憩になった。次の授業はLevel 1の「英文読解」。
このため、並松先生と一緒にLevel 1の教室で待機した。
Level 1のほとんどは1年生。本校に入学して3カ月弱だが、すっかり馴染んでいる。教室内は、打ち解けた雰囲気で音楽を聞く生徒、談笑する女子、そしてチョコレートを食べる生徒・・・。
(後でゴミ箱を覗き込むと、なんとチョコレートの包み紙がいっぱいで、チョコレート3~4つ分くらい捨てられていた。チョコレートが好きなクラスかもしれないが、食べ過ぎちゃう!?、と思わず、突っ込んでしまった。これは余談だが・・・。)
予鈴の音楽が流れ、チャイムが鳴りやむ直前に谷本先生が駆け込んできた。先生自身、授業に間に合ってセーフ、という感じで、息を切らしながら、教卓の上に置いた「出席簿のiPad」を横目に見ながらタップ。さっそく授業が始まった。「英文読解」の授業だ。『New Stream』という高校の検定教科書を使っている。
「英文読解」の授業で思わぬハプニング ―ちょっぴり怖い訪問者―
谷本先生はKI出身の教員。今日は、「偉い先生」が授業を視察するとのことで、授業開始当初からひどく緊張していた。どうりで、iPadの欠席者タップのとき、少し指が震えていたように感じた。しかし、授業が始まると、結構テンポ良く授業が進む。しかし、ソウコウしているうちに、突然、開いていた窓から黒っぽい蜂(ハチ)が舞い込んできた。
ブンブン、ブーンブン、ブンブン、ブーンブン・・・。教室内を飛び回る。サッと、生徒の近くに飛びかかる。女子生徒は、怖くて身を避ける。追い払おうとする男子生徒・・・。
「飛び回るハチのため、教室内は騒然となった」と書きたいところ。しかし、生徒は蜂を避けながらも、それでも授業を受けようとしている。一方、谷本先生はと言うと、先生自身もめげずに授業を進めようとする。しかし、生徒たちは蜂に気を取られてなかなか集中できない。
一分ほどして、ついに、ハチが蛍光灯にとまった。まばゆく発光する光に引き寄せられたのだ。これを見た私は、授業中なのでちょっと気が引けたが、谷本先生に目で合図して、思い切って教室の電気をOFFにした。こうしないとハチは追い払えないと思ったからだ。そして、教卓から先生の教材を一冊片手に取り、窓を全開にした後、蛍光灯のハチをめがけて思いっきり教材を打ちつけた。
蛍光灯が、パリーンと割れる、と危ないですよね。私は、教材を蛍光灯に打ちつけないよう計算して、2センチの隙間を残して強打。すると、ハチは迫りくる教材に驚いたのか、一目散にブーンブンと飛び立った。そして、全開にしておいた窓から無事に飛び去った。この瞬間、生徒たちから一斉にどっと拍手が起こった。
長年、教師をしているが授業視察時のこんな経験は初めて。もし失敗していたら、授業見学どころでなくなっていたに違いない。上手くいって、胸をなでおろした。
日本人教員による「英文読解」の授業はどんな感じ?
谷本先生は、高校検定教科書「コミュニケーション英語Ⅰ」の『New Stream』からLesson2 『Challenges & Dreams』の次のパッセージを取り上げていた。
Now we can travel around the world easily in one or two days by plane. However, people still want to break records. An American named Dave Kunst was the first person to walk all the way around the world. He spent four years from 1970 to 1974 and wore out 21 pairs of shoes on his journey.・・・・・
谷本先生は、英文を日本語で解説していた。英文の基本構造を理解するため、まず主語(S)と述語動詞(V)を押さえる。
An American named Dave Kunst was the first person to walk all the way around the world.
この英文の主語(S)はどれ?
述語動詞(V)はどれ?
では、主語(S)の“An American named Dave Kunst”について、
“named”は分詞だけれど、何分詞?
“~ing”は、現代分詞だが、どう訳す?・・・・・・
“~ed”は、過去分詞だが、どう訳す?・・・・・・
では、”An American”と、どうつながってる?・・・・・
谷本先生は、質問を織り交ぜながらテンポよく説明。生徒も時に答えに詰まる時もあるが、一生懸命答えている。
ネイティブの授業では、(S)+(V)を確認しつつ基本的な文法事項は押さえることはあっても、詳細な文法を解説することはない。しかし、谷本先生は文構造を分かりやすく解説。外国人教員にはできない授業だ。
きれいな日本語に訳することができるかどうかは、日本語力も関わるので別問題として、英文の基本構造を文法的な観点からしっかり理解することは、英文理解には欠かすことができない。高校生としてしっかり理解しておくべき文法事項だ。
本校の英語指導システムは、どんな感じ? どんな評価だったの?
KIでは、外国人教員の授業では、英語を実際に使う“実践的な英語”授業を行っている。しかし、日本人教員は“英文理解”を深める役割を担う。もちろん、“大学受験”にも対応する。週12時間の英語授業。レベル別の少人数クラスで、外国人教員と日本人教員がそれぞれ特徴を生かした授業を行っている。
最近、「日本人教員も英語で授業する」ことがもてはやされている。文科省もその方針だ。しかし、中途半端なやり方で英語を教えると、“実践的英語力養成”も“英文理解”もそれぞれが中途半端になる。並松先生は、外国人教員と日本人教員の両者の強みを生かすKIの英語指導システムをほめて下さった。
学年別で実施する、英語で学ぶ「サイエンス」「社会科」はどんな感じ?
昼食のあとの午後は、学年クラスによる授業。Warham先生による2年生のサイエンス「Ecology」を皮切りに、1年生の松尾先生の「世界史」、そして最後は3年生のWillard先生の「Civics(公民)」を見学した。
Ecologyではglucose(ブドウ糖)が取り上げられていた。私自身、高校時代に「生物」の授業で教わった化学の分子式だ。35年以上前に習った光合成。その光合成を英語で教えているのだ。
二酸化炭素(CO2) + 水(H2O) が光エネルギーを取り込み、photosynthesis(光合成)をする。すると、ブドウ糖(C6H12O6)が合成される。日本語でも難しい授業内容。しかも生徒たちは英語で学んでいる。ここまで英語漬けになると英語が好きな生徒にはたまらないだろう。でも難しいことも事実。自分が高校生のとき、こんな授業を受けていたら、受験英語しかしてこなかったので、きっと“チンプンカンプンだっただろうな”と思いながら、Warham先生の説明を聞いていた。
Why do we need carbon?
What are we made of ?
What happens when we die?
Warham先生は次々に発問。そのプロセスの中で地上のすべての生物が生きていくには炭素(C)が必要であること、生物が死んで分解すること、そして炭素(C)が重要な構成要素になっていることを教えていた。
生徒たちは、先生の質問に時に詰まりながらも、果敢に英語で答えていた。授業を見ながら、手前味噌ではあるが、このレベルの授業を英語で理解している生徒たちのことを誇りに感じた。「1年次から英語で授業を受けているので理解できる」、そう確信させられた授業だった。
次の授業は、Willard先生の3年1組「Civics」。イギリスの都市、Birmingham(バーミンガム)を例に、都市に現れているinequality(不平等)の問題が取り上げられていた。失業、貧富の格差、所得による居住地域の違い・・・都市が直面する現実を扱う。サイエンスとは違って、社会科では人間が直接かかわってくる。社会矛盾をどう解決するのか。Willard先生の質問に生徒たちが口々答えていた。
高校教育に詳しい外部有識者の感想は?
この日、習熟度別クラス編成の英語6クラス、学年別ホームルームで行っている3クラス、計9クラス、3時間近くに亘って授業を見学した。応接室に帰って、並松先生に感想を聞いてみた。
並松先生によると、一番印象に残ったことは生徒たちが授業に積極的に参加していること。一言で言うと”Participation”(授業参加度)。一般の高校では授業中、下を向いている生徒が多いが、KIでは先生の方を向いて、自由に質問し、意見を言っている、とのことだった。
次に印象に残ったことは、生徒が明るくて、アクティブなこと。そして、3つ目は、先生と生徒の距離がとても近いこと。先生も生徒も楽しそうで、生徒たちが伸び伸びといい雰囲気で授業が進んでいた、とのことだった。
冒頭に記したように並松先生は、大阪府立高校で英語を教えてこられた。また、授業視察の経験もある。一般の高校では、こんなに楽しそうに授業を受ける、ということがないとのことだった。
進学校と呼ばれる高校との違い ―生徒の様子とクラスの雰囲気―
また、進学校と呼ばれる高校では、英語の授業でも、社会科でも、体育でも多くの先生から大学受験のプレッシャーをかけられ、生徒たちもプレッシャーを感じる。時に、それが“いじめ”となって現れることもある、とのこと。しかし、KIでは生徒が仲が良くて生き生きしていて、「明るい」とのことだった。
参加型授業、先生との距離が近い・・・これも明るくさせる要因ではあるが、いきなり大学受験という大きな目標でなく、KIでは英検指導やTOEIC指導を実施していて、例えば「今回は英検準2級に合格したから、次は2級合格を目指そう!」という近未来の具体的な目標を立てやすい。このことも生徒が生き生き学ぶ要因となっているのではないか、ともおっしゃっていた。
多くの授業を英語で行っており、しかも一定レベルの授業内容を保っている。加えて、生徒がアクティブに授業に参加している。これらの要因によりKIでは生徒の英語力が伸びていることが実感されたようであった。
昨年の学校評価委員会と、今回の授業見学との印象の違いは?
並松先生は、去年、学校評価委員会に外部有識者として初めて参加した。評価委員会での英語実績や大学進学実績を見ても、一般の高校現場での今までの体験から、KIの授業はinactive(活発ではない)だろうと思っていた、とのことだった。ところが、実際に授業を見学してみると、生徒たちがとてもアクティブに授業に参加していた、と付け加えられたことも印象的だった。
終わりに
授業見学のあと、並松先生が何度か口にされた「生徒が明るい」という言葉が一番私の心に残った。並松先生から、「せっかく良い教育をしているのだから、中学校の先生にも授業見学に来てもらって、肌で体験してもらったら、生徒数はもっと伸びるよ!」、というアドバイスもいただいた。英語教育の現場で長年教鞭をとってこられた先生からのコメントとアドバイスは、教育現場の責任者を務める私には大きな励ましとなった。
教職員及び生徒の皆さん、授業見学時の協力ありがとうございました。
教育主任 滝本武
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