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2017.02.17
3年生の国語の授業でショートストーリーの創作を行いました。ー増田ー
ショートストーリーの創作
今年度も、三年生の国語科の授業でショートストーリーの創作を行いました。梶井基次郎の『檸檬』にちなんで果物を一つ題名にして創作するという主旨のもので、昨年に引き続き個性的な作品が揃いました。今回はその中から趣の異なる三作品を紹介させていただきたいと思います。
『みかん』
人間とみかんってとても似ている。厚い皮にほとんど水分の中身。
私達は学校という名の箱に入れられ、卒業という名の出荷を今か今かと待っている。
それぞれ箱の見た目は似ていても、中に詰まっているみかんの質が違う。
いつからか箱のパッケージには学校名というブランドが記載されていた。そして私達も、それを意識するようになっていた。みんな有名なみかんの箱を選ぶ。ブランド力のない箱は影の存在になる。でも、それでもいい。少なくとも選んでくれる誰かがまだいるんだもの。
ある日、有名なパッケージの箱で一つのみかんがいじめられていた。パッケージは見て見ぬふりをした。いじめていたみかんをほかのみかんも見て見ぬふりをした。いじめっこみかんはいじめていくうちに少しずつカビていった。いじめた代償として自分の質を落としたのだ。その日からほかのみかんもカビはじめた。見て見ぬふりをして同じく自分の質を落としたのだ。最後にはみんなカビて誰もその箱を手に取ろうとしなくなった。カビはじめたみかんに早く対処していればこんなことにならなかったのに。学校というブランドの質も落ちただろう。
だから私たちはみかん。
一人が悪いことをしてカビる。
その人に影響されてカビる人もいる。
人生って難しいようでとっても単純。
その中で一皮むけたあなたは、一人前のみかん。
教員コメント
この『みかん』を書いた生徒は非常に文学的感度が高く、短歌や作文など、普段から何を書かせてもキラリと光るセンスを感じさせます。
本作に関してはまだまだ細部を磨くことが可能な、荒削りな文章です。また、ショートストーリーというよりは詩的な随筆のようでもあります。しかし人間の腐敗をみかん箱のカビにたとえたアイデアはとても巧みで、読み手に新鮮な気付きを与えてくれます。
『柿』
別に果物の中で柿が一番好きだとかそういう訳でもないのだが、時々無性に食べたくなることがある。子供の頃は秋になればよく朝食のテーブルに柿が並び、兄弟と数を競って食べていた。共働きだった両親の代わりに私達を世話してくれたのは祖母だった。私も兄弟も優しい祖母が大好きだったし、両親のいない時間もさみしさを感じなかったのは祖母の存在があったからだ。そんなことにも気が付かなかった高校生の私は、自分で何でもできると思い込み祖母の優しさをけむたがるようになっていた。その頃、祖母は体調を崩し寝室で過ごす時間が長くなっていた。その日も私は皿に並んだ柿を食べ、いつものように「いってきます」とつぶやき家を出た。三時間目の授業の後、取り乱す母の電話を受けた私は町の病院へとペダルを力強く踏み込んだ…。
祖母が亡くなって二度目の秋。いつものように朝食のシリアルを流し込み大学へと向かう。商店街を抜け右に曲がったとき、夕日に染まり一層色味がました大きな柿が目についた。何だか急に懐かしくなって八百屋に立ち寄り一つ手に取ってみた。店主の話によれば二年前まで毎週柿を買いにくるおばあちゃんがいたそうだ。店主はそのおばあちゃんと私の雰囲気が似ているのでふと思い出したと言うのだが、二年前の今頃、祖母はあまり外出できないほど体調がすぐれなかった時期であった。今の今まで忘れていた、祖母の優しさがよみがえってくるのを感じ、そっと目頭が熱くなるのがわかった。
毎年秋になれば八百屋によく熟れた柿が並ぶ。二つ買って一つは兄弟の朝食の席へ、もう一つは祖母の眠る仏壇へ。
教員コメント
『柿』を読んで、私も思わず祖母のことを思い出しました。わずか八百字という字数制限があったにも関わらず、きちんと起承転結があります。そして何より、「祖母の優しさ」という普遍的なテーマを描くことによって読み手を感情移入させることに成功しています。柿は祖母を連想させるための小道具として用いられていますね。短編映画にでもなりそうな、読めばすぐに懐かしい情景が思い浮かぶ佳作です。
『私はラムネ瓶の中』
私はビー玉。ビー玉って言っても普通のビー玉じゃあない、ミンミンと蝉がこれでもか、そんなに迷惑をかけたいのかと思うくらい鳴き叫び、公園の砂場に埋め込まれたタイヤは熱すぎて誰一人として遊んでいない、そんな暑いアツイ夏の季節に多くの人が一度は飲んだことがあるであろう、あのラムネ瓶の中のビー玉だ。私がビー玉の時は大抵、誰かに恋愛感情を抱いている時だ。表向きはラムネ瓶のように固く強く、そう簡単に割れない。一方、内面はしゅわしゅわ炭酸の、骨が溶けるんじゃないかってくらい大量の砂糖が入ったサイダープールにゆらりゆらりと揺れ、いつか来るであろうサイダープールの大波に怯えながらビー玉生活を送っている。まぁ端的に言えば、センチメンタルな時期だ。
恋ってなんだろう、あのもどかしい感じは何だろう、私は恋をしている時、いつにもなく息苦しい、上手に呼吸ができない。まるでビー玉がガラス瓶の中でぎゅっと首を絞められるかのように、自分ではない誰かによってそうされていることだけはハッキリ理解できる。私をキュンとさせ、毎日学校へ登校しようという気にさせてくれるアノA君は、私とまあまあ仲が良いBちゃんとよく楽しそうにお喋りしている。私はその輪に入ればいいだけなのが、ガラス瓶は想像以上に固く、思ったように身動きが取れない。なんだろうあのカンジ。でも決してそれは、〝苦〟ではないことは確かだ。ひょっとしたらそれは〝楽〟なのかもしれない。きっとそうだ。そうやって私は自分自身を勇気づける…。
でもある夏の日、Bちゃんが、A君と付き合った、という報告をLINEしてきた、私はいつも通り家に居た。ガラスが割れて、ビー玉が入っていないラムネ瓶を片手に。何故か、悲しく、頬が濡れていたんだ。
教員コメント
『私はラムネ瓶の中』は若さを感じさせる意欲作です。果物が題名でないという点は少し反則ではありますが、ぜひこのテーマで書きたいとのことだったのでOKしました。
この作品は、作者独自の〝文体〟がしっかり感じられるという点で評価できます。以前にも同じ生徒の文章を読んだことがある人なら、これを読めばたとえ名前を見なくても誰が書いたかすぐにわかります。例えば、一文が長い。本来であれば一~二行で句点を入れるべきところを、読点の連続でずらっとつなげる。もし作文であれば大変読みにくいものです。しかし小説の場合、これも一種の個性になります。またメタファーも豊かで、〝恋をして身動きが取れない切ない気持ち〟をサイダー瓶の中のビー玉に例えるという初々しい想像力は見事でしょう。この生徒のように自分の個性を明確に文章で表現できることは、創作においてはとても大切なことです。
総評
実際、細かく言うと文章的には国語科教員としていろいろと添削したい部分もありますが、生徒たちの想像力、創造力はこちらの予想を遥かに超えたところにあります。関西インターナショナルハイスクールの三年間で培ったそのような活き活きとした感性、自由な発想力を、できることなら卒業後も伸ばし、活かしてほしいなと願います。
また、毎年KI生が入選を果たしている「お~いお茶 新俳句大賞」の応募原稿も先日完成し、こちらも良作が多数生まれました。しかし応募は未発表作品に限られるため、ここにはまだ掲載することができません。今度は誰がどんな作品で受賞するのか、今から結果が楽しみです!
国語科教員 増田理人
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