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2016.10.27
ベトナム研修旅行を振り返って―現地を体験することの大切さ 滝本―
実践的な英語教育・インターナショナルスクール教育に打ち込む本校では、基本的に卒業までの3年間で1度、ホームステイ及び海外研修旅行に行く行事計画を組んでいます。ホームステイはオーストラリアで2週間程度、研修旅行はアジア圏で3泊4日を基本とします。
今年の研修旅行先はベトナム
今年度は2年生はオーストラリアホームステイに、1年生・3年生はベトナムに行ってきました。ベトナム研修を準備段階から振り返ってみようと思います。
管理職としてベトナム研修旅行を引率した。海外に生徒を連れて行くのですから、現場の責任者として出発前から心配が絶えない。
例えば、交通。飛行機での事故発生率は自動車より遥かに低いため、さほど心配はなかったが、ベトナムではバイクの量が半端ではない。道路がバイクで埋め尽くされている。横断するとき、接触事故などに遭わないか。安全面は大丈夫か。
感染症も心配のひとつ。日本にいても感染の可能性はないとは言えない。しかし、マラリアやジカ熱など、熱帯地方特有の感染症のことが心配。私自身、フィリピンやタイ、マレーシア、シンガポール、台湾など何度も東南アジア諸国を訪問している。フィリピン・ルソン島の奥地に入ったこともあれば、原住民しか分け入らない島々を巡ったこともある。タイではプーケット近くの原住民(Sea People;海の部族)と交流したこともある。出発前は外務省のホームページを何度もチェックし、ネットに登録して外務省から直接情報を得ていた。
3月には担当教員に下見をしてもらい、食事の内容やアレルギー対応を含めて、生徒の安全面や健康面でリスク軽減にも努めた。担当教員が引率案を取りまとめ、職員会議や引率担当者会議を何度も実施した。
心を配るべきことが多数あり、諸方面のリスク管理を考えないといけないにもかかわらず、なぜ、海外研修を実施するのか。それは、現地に行って体験して初めて分かること、見えてくることがあるからだ。同時に、グローバル化した国際世界を生きていくためには、若い時に現地を肌で感じておくことが大きな力になる。国や文化の違いをわきまえて行動する、そのような基本姿勢を養う契機ともなる。
本校は、一般の高校に比べ2歩も3歩も先を行く国際教育を実施しているという自負がある。授業の中で、食糧危機や水問題、児童労働や少年兵、テロや難民など、世界で起こっている事象や問題を取り上げ、クラスの中でも議論する。日本語で。英語で。時に映像を見て。しかし、教室の中で学ぶだけでは見えないことがある。現地で体験し、肌で感じ、また現地の人と交流し、吸収できるものがある。しかも、高校生と言う柔軟で若い時であればこそ、人生の宝となるような体験ができる。
では、なぜ、ベトナムなのか。大阪市内にはシンガポールに行く私立高校がある。確かに、シンガポールは日本を超えるような発展を遂げている。安全面でもベトナムより安心だ。英語言語圏でもある。このため、現地の高校生との交流もしやすい面がある。
にもかかわらず、あえてベトナムを選んだのには理由がある。まず、ベトナム戦争の痕跡があり、体験した人々がいて、戦争の悲惨さを肌で感じることができる。戦争と、その対極の平和のことを考えることができる。発展途上国の人々の生きざまを体験できる。異国情緒にあふれた文化や風習に出会える。メコン川のジャングル・クルーズや水上人形劇などベトナムならではの体験ができる。英語で学ぶ現地高校生と交流ができる。言葉で要約すると薄っぺらくなってしまうが、ベトナム研修に参加した生徒の感想文を読むと、どんなに貴重な体験をしてきたのか、心に迫ってくるものがある。
異文化の違いを超えての体験の旅。生徒たちにとっても、けっこう密でハードなスケジュールだった。しかし、よく頑張ってくれた。詳細については、すでに掲載しているブログ記事に譲る。しかし、私が特に強く印象に残ったことを生徒たちの文章を通して紹介したい。
この研修で何を学んだのか。一つ目の文章は、ベトナム戦争について授業で学んだことが起点となっている。
<ベトナム研修旅行で得た体験・発見・学び> 3年 榎本安純
ベトナムに行く前に、かなり詳しくベトナム戦争について学んだと思っていたのですが、実際に戦争証跡博物館に行ってみると、やはり想像以上に残酷で非情な戦争でした。人間ができることとは思えないくらいひどい、と初めは思いました。しかし、一番人間を殺すのは同じ人間なんだ、と気付きました。人を傷つけた結果を見せられてショックを受けました。知能を持つということの意味も考えました。特に驚いたのは、人間をヘリコプターから落としたり、ほぼ原型がなくなるまで生きたまま車で引きずり回している写真でした。たくさんの写真の中では子どもの姿も多く見られました。そんなむごい写真を見て胸が痛みました。同時にこの戦争はメディア露出が多かったから、後の時代の私達がその悲惨さを学べることに気づきました。人を殺すのが人なら、それを伝えるのも人で、それを学ぶのも人です。なら、過去から学んで同じ過ちを繰り返さないようにできるのは私達しかいないことを感じました。
<ベトナム研修旅行で得た体験・発見・学び> 3年 楠原緋奈乃
今回のベトナム研修旅行ではたくさんのことを学びました。ベトナムに行く前は不安の方が大きかったのですが、行ってみると思っていたより楽しくて良かったです。1日目は40年に一度のスコールが降り、新聞に載ったと聞いたときは驚きました。でも、こんな経験はめったにできないのでとても良かったです。市場での値切り交渉がなかなか上手くいかずに、粘り続けて気づいたら15分くらい過ぎていて、スムーズに買い物ができなかったことは少し後悔しています。道路はすべての交差点に信号があるわけではないので、事故がいつ起きてもおかしくない状況でした。車よりバイクの方が多くて驚きました。道を渡る時も気を緩めることができなくて怖かったです。このような点を考えると日本がいかに安全かということが分かりました。学校交流会ではお互いに(英語で)話すことが思っていたよりできて嬉しかったし、ベトナムの生徒たちが歓迎してくれたのもありがたかったです。本当に良い貴重な経験ができたことに感謝しています。
<戦争証跡博物館での感想・考察> 3年 宇野英男
私が戦争証跡博物館に入った時、初めに感じたのが悲しみと恐怖でした。あんな大きな戦車やヘリコプターで人を殺しているのが本当に恐怖に感じました。そしてベトナム戦争の写真を見た時、今まで生きてきて初めて言葉が出ませんでした。何も隠さず写真や実物を見せていただいて、感謝です。これらを見るまでは、口では「戦争はあかん」と簡単に言っていましたが、見てからは人の怖さや戦争の悲しさが分かりました。人を道具として扱っていたり、幼児・お年寄りも関係なく虐殺していて、本当にひどい時代だったと感じました。
宇野英男は、英語で授業を行っている現地のエリート校・レホンフォン高校との交流の際、生徒会会長として生徒代表スピーチをしてくれた。英語で堂々と現地の高校生たちに語りかける姿は今も印象に残っている。高校間交流も楽しい思い出となった。蛇足になるが、同行したJTB担当者からは、今まで経験した交流の中で一番すぐれた交流でした、というコメントをもらった。生徒たちの成長を評価してもらい、教師として最高に嬉しい瞬間だった。
The memory of the Vietnam trip will fade away, but the impression will remain in the hearts of our students for a life time.
(ベトナム研修の記憶は薄れていく。しかし、その印象は一生涯、生徒の心の中に生き続ける)
ベトナム研修から帰ってきて、研修旅行の様子をカナダ人教員Jeff Willard先生と話していたとき、Willard先生が言った言葉だ。確かに、ベトナムで体験したことの細かい記憶は時とともに薄れていく。しかし、この旅で得た印象やインパクトは心の中に生き続ける。生徒が今後生きていくうえで、心の糧となっていく。私はそう信じて、今後も海外研修を実施していきたい。
教育主任 滝本武
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