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2016.07.05

有権者として求められる力を身に付けるために(前編)

いよいよ18歳以上の男女にも選挙権が与えられます

昨年6月に公職選挙法が改正され、今年の夏の参議院選挙から18歳以上の男女にも選挙権が与えられるようになりました。この改正により、巷の教育界では「主権者教育」や「模擬選挙」といったトピックがトレンドとなりつつあるようで、頻繁に教員向けの様々なセミナーや勉強会が開かれているようです。そうした大人たちの「高校生に政治や選挙に興味を持ってもらわねば!」という危機感の背景には、若年層を中心とした投票率の低さが挙げられます。折角増加した若年有権者層なのですから、今まで通りの政治に無関心な若者ではなく、しっかりとした政治的判断力を備えた有権者に育って欲しいと願っています。

学校現場での動き

では、そうした「良識ある公民」の育成のために学校現場に何ができるのでしょうか。今年の5月下旬、文部科学省より「私たちが拓く日本の未来 有権者として求められる力を身に付けるために」という高校生向け副教材が届きました。実際の選挙の流れ、政治の仕組みといった基本的な内容に加え、討論の手法や模擬選挙、などがイラストやグラフを交えて体系的に分かり易くまとめられており、特に「政治・経済」の副教材として有意義に活用出来るのでは無いかと期待しております。文科省冊子

 

 

 

 

しかし、「高校生に政治に興味を持ってもらうこと」は、単に「社会問題に対して関心を高め、権利者(有権者)としての意識を高く持ってもらえば良い」と、いったような単純なものでは無いようです。というのも大多数の高校生の興味関心は友人関係や家族関係、恋愛、自身の進路といった日常の身近なテーマに終始しており、将来的な展望や、大きな視野でもって国政を身近なものとして感じることは中々出来ません。憲法改正も子育て支援も原発行政も長期的には、自分自身の生活に関わる問題なのですが、(多くの大人もそうであるように)それらの問題が自分自身の身に直面する事態にならないと、私事として真剣に考えることは難しいものなのかも知れません。

しかし、そうではない生徒の動きも見受けられます。憲法改正や集団的自衛権の問題等をディスカッション形式で授業内に取り上げると、多数派の生徒は政治的なアパシー(無関心)状態にあるように見受けられるのですが、一部の生徒はとても敏感に反応します。彼らは意欲的に(ややオタク的に)様々な情報源から情報を集め、授業に臨むので発言量で他を圧倒します。「社会問題に対して関心を高め、権利者(有権者)としての意識を高く持ってもらえば良い」という評価軸で判断するならば彼ら彼女らのアクティビティは満点をつけるべきなのですが、授業担当者としてはそうした評価方法に一抹の不安を感じずにはいられません。

何故ならば、発達段階にある若い精神は、ともすれば極端な思想や他者の言動に極めて染まりやすく、また集団心理が働いた場合、他者への攻撃性や排除の感情が働いてしまう可能性があるからです。だからこそ、学校現場で政治的な問題を取り扱うこと自体を日本の学校教育、社会科教育は意識的に避けてきたように私には思えるのです。それは戦後日本が経験してきた記憶、歴史的事実からもわかります。

1970年代はじめ日本で起こった学生運動

1970年代初頭の学生運動華やかなりし頃、当時の文部省から「高等学校における政治的教養と政治的活動について(昭和44年10月31日)」という以下のような通知が出されました。

「大学紛争の影響等もあって、最近、一部の高等学校生徒の間に、違法または暴力的な政治的活動に参加したり、授業妨害や学校封鎖などを行なったりする事例が発生しているのは遺憾なことである。 ~中略~ 最近、一部の生徒がいわゆる沖縄返還、安保反対等の問題について特定の政党や政治的団体の行なう集会やデモ行進に参加するなどの政治的活動を行なったり、また政治的な背景をもつて授業妨害や学校封鎖を行なうなど学園の秩序を乱すような活動を行なったりする事例が発生している。」

冒頭の文章からは、当時の時代背景、緊張感を感じます。通知の内容を要約すると以下のようになります。

  1. 参政権が与えられていないということは、国家・社会としては未成年者が政治的活動を行なうことを期待していない。むしろ、しないで欲しい。
  2. 心身ともに発達段階にある生徒は、経験のなさから判断力も未熟であり、特定の極端な政治思想に染まる危険性がある。
  3. 学校外の政治的活動であっても、何らかの形で学校内に持ち込まれ、他の学友に影響を与えることになり、また自身の勉学もおろそかになる。

学生運動

 

 

当時の学生運動といえば大学が主戦場であったという印象が強いのですが、一部の高校現場も同様であったということが文面から読み取れます。以降の歴史は学生運動の衰退とともに、政治に無関心な「しらけ世代」が世間一般に台頭し、また社会科教育で扱われる内容も現在進行形の社会問題や、議論が左右で分かれ評価が定まっていない問題は極力、避けられ、画一的で無難な内容が主流になってゆきました。それはまるで「寝た子を起こすな」と言わんばかりの教育であるかのように感じられます。

決して高校生は無知であるから、無責任だから、といった理由だけで政治に無関心なのではないように感じております。むしろ若さゆえに、純粋で真っ直ぐな心は社会的な欺瞞を許すことが出来ないのです。結果、政治的な活動が過熱しすぎる危うさが付きまとい、また、それを危惧した大人たちが意図的に政治的な問題に蓋をしてきた側面もあるのではないでしょうか。

(続く)

 

社会科 松尾祐樹

 

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